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家勉応援オンライン家庭教師のブログ

医学部の小論文とは?【解答例を書いてみた】

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2019/11/28

いまnote(というブログサービス)やTwitterで流行の兆しを見せつつある、小論文の解答例アップ。「お湯」さんという方が挑戦状(?)を出している。あなたはどう書くか?と。それに乗って僕も書いてみる第二弾。お湯先生に「これまでで最難度」と言わしめる難問にトライ。例によって、肝心の解答例は末尾に。


お湯 on Twitter

“「動物のゾウを知らない小学校4年生がいたとする。この児童に、ゾウとは何かを文章で説明しなさい。(図は不可)」※字数制限なし ('18産業医科大―医) これは極めて難しい問題だと思います。これまでで最難度ではないでしょうか(当社比)。 皆さまどう説明しますか…?”


短い設問文。でも僕はいつも言うのだけど、設問文の長短は無関係。そこからどれだけ深く出題者の狙いや要求を読み取るか、それが試されている。そして短い方が、ヒントが少なくて読みにくい反面、あるもの全てを使えば良いので、余計なことを考えないで済むとも言える。更に「医学部」という条件を満たす必要もある。


では、設問文を読んで「何となく引っかかる」点を整理列挙してみる。ドラマに出てくる腕利き刑事と同じで、些細な点からどれだけ自問を引っ張れるかが勝負である。



■設問文で気になること


・動物の「ゾウ」

なぜカタカナ? 像? それとも素直に象?


・「知らない」という事実

日本ではありえないだろうが、未開の非文明国なら(あるいは江戸時代の日本なら)と想定できる


・小学校4年生

どういう存在か? 具体的なイメージを立て、更にもう一度抽象化して特徴を考える必要あり


・児童

これはヒント。「生徒」でも「患者」でもない。では「児童」という言葉からもたらされる「意味」は?


・ゾウとは「何か」

用語定義とも言えるが、では用語定義をパーフェクトにしたところで出題者の要求を満たせるのか?


・字数制限なし

何字でも良い、と解してはならず、適当な字数を想定せよ、と解釈した方が良さそう


・医科大学 - 医

医学部、ということだから当然、医師を目指す人が受ける試験


・その他

「説明」「図は不可」は、文字通り素直に受け取って良いだろう



■設問解釈のまとめ


以上を複合的に整理すると、この設問に対し、次のような自問や解釈が可能だと僕は思う。


1. 10歳をどれだけリアルに想定できるか?

2. その10歳は「象」を知らない

3. したがって「象」という言葉が存在しない

4. 言葉が存在しないから「象」という実在(象そのもの)も不在

5. 「象」の用語定義だけでは「10歳」に刺さらない

6. 出題者が求めているのは、その子に「象」という言葉を出現させること

7. 文章を読むのは「10歳」であるから、文体や構成に工夫が必要(文字数にも気を遣う)


自分が10歳の頃にどうだったか?という体験をヒントにしても良い。けれど、そこを越えないとハマる。なぜなら、自分はたぶんその頃に「象」を既に知っていたから。動物園で見たり聞いたり、匂いを感じたりしているはず。あるいは絵本で、テレビで見ているはず。そうした経験やイメージ、想像があるから、「象」という「言葉」だけで実在と繋がることができる(このあたりは「世界は言葉でできている」という言説の意味が分かっている、という前提で解説している)。


「ゾウを知らない小学校4年生」だから、言葉がまず存在していない。たとえば高度経済成長期にスマホの存在を知らない人に向かって、次のように滔々と語ることがどれだけ無意味かわかるだろう。


あと50~60年後くらいにね、スマートフォンっていう電話と手紙とテレビが全部一緒になった機械が登場するんだよ。しかもそれは掌に収まるサイズだ。小学生ですら持っているくらい一般的になってる」


スマホの説明としては、とりあえず十分。けれども、そう言われたところで、当時の人はどう思うか? たぶん「信じない」と思う。そんな夢みたいなものが実現できるわけないじゃないか、と。あるいは頭の柔らかい人なら、未知の装置を自分なりにイメージするかもしれない。けれどもそれは、その人だけの限定的な「スマホ」であって、一般的な「スマホ」とは言えない。「スマホ」という「言葉」がないので、多くの人が認識できる「スマホ」は、決して存在しえないのだ。


ここに大事なヒントが潜んでいると僕は思う。つまり、言葉がないから実態も存在しない(世界は言葉だから)。だから、用語定義のような言葉を尽くしても、そもそも意味がないのだ。したがって、「象」という言葉も、「象」という実在も存在しない相手の頭の中に、どれだけリアルに想定させられるかが、一つ目のポイント。その実現のためには、相手の立ち位置にまで下りていくことが必須。「下りる」というとレベル差があるみたいだから、もう少し格好よく表現するなら、相手に寄り添うと言い換えても良い。「こちら側の」言葉を駆使するのではなく、「相手にとって」理解とイメージが湧く言葉で迫ること。これがいちばん求められている要素だと思う。読んだ子供が「ああ、ってことは~こと?」とイメージできるかどうか。


ということは「読んでもらう工夫」が必要になってくる。ただでさえ10歳の子供。理論的に説明するだけでは飽きられる。つまり感情にも訴えねばならない。もし幼児相手なら「むかしむかし、あるところに……」と始めるのもありかもしれない、ということだ。あるいは綺麗な例えをするなら、自分の病状や症状についてまったく無知である患者に対して、診察結果や施術方針を説明するのと同じ状況である。そしてたぶん、この設問はそういう意味なのだろう。何せ医学部からの出題なのだから。


典型的な「小論文」として書くのではない。ある意味「アウトサイダー」な文章になるはず。だって相手は子供だもの。そう判断して、思い切って普段の枠を外せるか? 現場でその決意と覚悟を持てるか、勇気が試されている。でも、医師とはそういう職業だ。



■方針


・興味を引くために「掴み」から入る

・漢字はなるべく開く(平仮名にする)

・文字数はなるべく短く(あるいは長くても読ませる工夫を)

・容易に想像できるよう、数字など具体で示す

・象の現実的な定義は必要(ただし説明を工夫)

・できればユーモアを交えて

・「ゾウ」という「言葉」は最後に一度だけ使う



【解答例】


今日の朝ね、ぼくは弟とケンカして「兄ちゃんなんて大っ嫌いだ」と言われちゃったんだ。すごく怒ってて、口もきいてくれない。どうしたら良いかわからなくて、とても困ってるんだ。そこで、もし良かったらなんだけど、君の力を貸してくれないかな。

弟がなぜ怒ったかというと、こういうことなんだ。

「兄ちゃん、おれスゴイこと考えたんだ」

「へえ、どんな?」

「動物どうしで戦わせるゲームにはまっててさ、自分でキャラクターを作れるんだ。友達はライオンをベースにしてて、相手に勝ったらキバを大きくできる設定にしたって言ってた。でも、それよりぜったい強い動物をオリジナルで考えたんだ」

「どんな動物なの?」

「兄ちゃん、パワーの条件って知ってる?」

「力の大きさ、ってことかい?」

ぼくは真剣に考えたよ。力があるってことは、いったいどういうことか?ってね。たとえばお相撲さんは、体が大きい方が強いよね。だからみんな、ご飯を山ほど食べる。焼肉なんか20人前だってペロリと食べる。体重が重ければ、相手が素早く動けても負けないよね? ボクシングだってヘビー級が最強だ。だから弟にこう言ったんだ。

「体がデカければ強いんじゃないかな」

「ピンポーン。正解! でも不正解」

「ええ? どういうことだよ」

「体が大きいだけじゃダメだよ。生き延びることも考えなきゃ」

「生き延びる?」

「そうだよ。毎日、焼き肉ばっかり食べられないでしょ。お金もかかるし。ママがよく言うよね。お肉ばっかり食べないで、野菜もちゃんと食べなさい、って」

「あぁ、言うねえ。お肉一口につき、野菜を三口って」

「そうさ。食べるものは、手に入りやすいものを選ばないとダメだよ。だから、そこらへんにある草を何でも食べるのが良いんだ」

「なるほどね。他には?」

「キバはやっぱり欲しいね。カッコいいし。あと、集まって暮らしてる方が安全。家族だけじゃなくて、親せきとかグループで行動するの」

弟はこんなことも言ってた。体が大きいから、日本みたいな小さな国じゃ暮らせない。アフリカみたいな大きな場所で生きている。雪が降らなくて過ごしやすいしね。

「でも兄ちゃん、欠点が二つあるんだ。一つは、草を食べるために鼻を長くするしかなかったんだよ。あんまり体が大きいから、しゃがんでも顔が地面に届かなくなったんだ」

「長いってどれくらい?」

「大人が二人分くらいかな。だって体は小さなバスくらいあるから。消防車のホースみたいな細っこい鼻だとバランスが悪くて、どうしても太くなっちゃった。もう一つは、体が大きいと動きはやっぱりノロくなる。だから、敵が遠くにいてもすぐ分かるよう、耳を大きくしなきゃいけなかった」

「それもやっぱり大きいんだろうねえ」

「ピクニックにつかうレジャーシートみたいだよ。まるで耳には見えない」

「ふうん、ちょっとカッコ悪いね」

そのときぼくは、つい正直に言っちゃったんだ。ヤバイ、と思ったけれどもう遅かった。

「何だよ! カッコ悪いって! ひどいじゃないか。ぼく、いっしょうけんめい考えたのに!」

涙を浮かべて怒ってた。悪いことしちゃったなあ。せっかく弟が楽しそうに考えたのに。おまけに、弟が考え出したキャラクターは、実は本当にいる生き物なんだ。でもプンプンして飛び出していった弟に、もう本当のことなんか言えない。そこでね、君にお願いがあるんだけど、聞いてくれるかな。君から弟に、その動物の名前を教えてあげてほしいんだ。その動物はみんなから「ゾウ」って呼ばれてるんだ。


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